1. TOP
  2. 日常
  3. himawari

himawari

今日、今、その瞬間は、その一度しかない。
特別だろうがなかろうが、一度しかない。
ありふれたこの言葉のその本当の意味を、僕は理解していなかった。

もしあのとき打ち所が悪かったら、僕の家族は僕のいない人生を歩むことになっていたかもしれない。
明日、家族の誰かが事件に巻き込まれてしまったら、僕は家族の誰かがいない人生を送ることになるかもしれない。
明日何があるかなんて、誰にもわからない。

その何かがある日、もし喧嘩でもしていて、口も聞かず顔も見ず出かけたりしていたら、後悔どころの話じゃないほどの苦痛と苦悩で正気には戻れなくなるかもしれない。

だからか。

女房は、僕と一緒になってからずっと、ただの一度も欠かすことなく、僕や子どもたちが出かけるときには、必ず玄関先にまで出てきて顔を見て送り出す。
忙しくても、時間がなくても、たとえ些細なことで僕や子どもたちがヘソを曲げて機嫌を損ねていても、自分が誰かに腹を立てることがあっても、必ず。
一度として欠くことなく。

ああ、この人は解ってるんだ。
あの言葉の意味を。
いつ何があっても、後悔が少しでも小さくなるよう、そのときにしかないその一瞬を、想いを、大切にすくい取っておこうしてるんだ。

送り出した人がそのまま自分のもとに帰って来ることなく、二度と会うこともふれることもできなくなってしまったら。
はっとそれに気づいたとき、自分のどこでもいいからその人との刹那を刻みつけておかないと絶対後悔する、そう気づいて大切にしたくなる。

何でもない日常は、そういう刻みつけてきた大切な刹那の蓄積でできた奇跡の塊なんじゃないのか。

物事は大抵、失くしてからその大切さを知り、巻き戻せない時間の残酷さを知る。御多分に洩れず僕も、かつてそういう後悔を味わった。

二度とないその瞬間を、大切なものの何気ない表情を、精一杯、丁寧に、心に満たして生きていこう。

こんな言葉を何千と並べても足りないくらいに。